文 林 通 信

La première qualité du style, c'est la clarté. Aristote

ずた袋 と つれづれ詩

独身でも既婚でも子どもがいても、仕事があってもなくても、どんなにすぐれた羨ましい境遇でも、すぐれていない境遇であっても、すべての人が例外なく、それぞれに、言葉にならないほど重たいずた袋を、孤独に引きずって歩いている。それはほとんどの場合、…

ある朝のしずけさ

ねぎと生姜の炒めたものに、豆乳をそそぎ、あたため、 わたしはちいさなキウイを、刃(は)がギザギザになっている小型ナイフで 半分に切り、青い柄(え)のついた大きなスプーンで すくってたべる まん中下の軸にひっかかる スプーンですくえない果実の中央 わ…

「豪奢である」とは、何か

「豪奢である」とは、何でしょうか。好きなものを思う存分もつことができ、贅沢できるということ。そのめぐまれた特異な環境、地位、身分ー。 物質的な過剰さにたいして、多くのひとは蔑みとあこがれという相反する感情を本能的に抱くのではないでしょうか。…

シャオチンの場合

「祖国に戻ったって、残された道はひとつだけ。与えられた仕事をして稼いで、好きなものを買うだけ。それならこっちで、思う存分に挑戦した方がずっといい!!」 これは中国からパリにやってきた、シャオチンのことばだ。私たちはパリカトリック大学で同じ講…

プルタルコスの森

Les buveurs, après avoir étanché leur soif, s’amusent à regarder les ciselures qui ornent le bas des coupes et les retournent à dessein. De même, lorsque notre apprenti sera repu d’idées philosophiques, il pourra reprendre haleine : on lui…

一枚の膜のうしろを覗きこむ

わたしたちは、考えなければならないだろう 一枚の写真の、一つの文章の奥にあるものを 感じとらねばならないだろう そんな訳で、何がなんでもむしゃくしゃ写真を撮って おさめればよい、という話ではないという気がしてきた わたしの中には、ルポルタージュ…

エクテ・アンコール

森のなかを、歩く。黄緑色の涙を流しながら。 子供を抱き、あやすときにはその子の耳に寄り添い、老師を愛し、そのことばをよく聴くようおどけて話したものだ。その子は大人になり、温かさを求めて青い光のなかへと飛び立った。あれ以来、彼が戻ることは二度…

神さまのノート

世界のひみつはすべて、 神さまのノートのなかにあるとしたらーーー。 教会は、きょうも生と死をつかさどる。 生まれたとき、赤子は洗礼を受ける。 天に召されたとき、葬いの儀式がおこなわれる。 祭壇に向かう中央の通路には、数えきれないほどの新生児と死…

au-delà

出来ごとは、ときに人の心を翻弄し戸惑わせるけれどもすべてが人の知性でもって解決できるわけではない この限られた世界のなかに無限の時の流れが横たわっていてそれに決して抗うことができないのと同じこと そんな時には「待つこと」が最大の努めとなる 砂…