一枚の膜のうしろを覗きこむ
わたしたちは、考えなければならないだろう
一枚の写真の、一つの文章の奥にあるものを
感じとらねばならないだろう
そんな訳で、何がなんでもむしゃくしゃ写真を撮って
おさめればよい、という話ではないという気がしてきた
わたしの中には、ルポルタージュ好きな人間と、
より詩的ななにかを好むアンフォルメルな人間が
織りまざっていて、ひどく厄介だ
いずれふたりは決着をつけるのだろうか
にしても、写真の色と色のあいだに入り込んでいくような
あるいは、文脈の境に割り行って、幕の後ろへ潜っていくような
そんなぶくぶくとした沈潜がひつようであろう
そんな訳で、ふたりの種類の人間が
今日もからだの中で随分と長く話し込んでいる
エクテ・アンコール
森のなかを、歩く。黄緑色の涙を流しながら。
子供を抱き、あやすときにはその子の耳に寄り添い、老師を愛し、 そのことばをよく聴くようおどけて話したものだ。 その子は大人になり、 温かさを求めて青い光のなかへと飛び立った。あれ以来、 彼が戻ることは二度となかった。
この森には、 実にさまざまな形態のあでやかな果実が連なり成っている。 イチジクのような、赤紫の小さな楕円の実から、 ブドウのような細かい房をもつものまで、 正しさと奇形の合間を彷徨いながら、 各々の果実を枝先にもたらす。
赤く透きとおったロングスカートを引き摺り歩くため、 鋭い葉先が度々引っかかる。薄い生地の表皮には、 無数の傷が刻み込まれ、ささくれ立つ度に、 啜り泣くような音がする。
あの子は、噪音のなかに掻き消されてしまった。 彼がことばを発しようとする度に、 絶え間ない音の暴力が地に響き、 唇からまさに漏れ出ようとしていた最初の子音は消え去られた。
こうして歩いている間にも、 冷えきった足に土の欠片がくっついて取れないのは、 そこに湿り気があるから。 すべての生きものの始まりの出会いを生み出した湿度。 黄緑の涙はふくらはぎを伝って、この穏やかな土の養分になる。
子供が差し出した舌の、異様な赤さ。 遠くの記憶にシャボンを飛ばす。仕方なく歌を紡いで、 唇の手前まで出掛かった名前を慌てて鎮める。
涙は小川に交じり、 わたしたちの行く手を塞ぐ得体の知れない壁に薄緑の淡い衝突のあ とをのこす。その奇妙な模様が、森に歪な歴史を刻み込む。
ここに来たのは、休息のためでも、闘いのためでもない、 あなたの聴覚をとり戻すため。 秩序と調和を信じるための、あらゆる努力を怠った責任を被るため。
そして死んでしまった無垢な小鳥を、夜空に放つため。
知恵はわたしたちに先立たない。